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公正証書とはなにか?

2025年12月12日

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公正証書とはなにか?

2025年12月12日

「公正証書」という言葉は耳にしたことがあっても、具体的にどのような文書なのか、どのような場面で利用されるのかを、はっきり説明するのは意外と難しいかもしれません。遺言書や金銭の貸し借り、離婚の取り決めなど、人生の大きな局面で登場することが多いのが公正証書です。

本記事では、「公正証書とは何か」「どのような効力があるのか」「どのような場面で作成を検討すべきか」を開設し、行政書士が関われる範囲についても、法律上の限界を踏まえて説明します。


公正証書とはなにか?

まず、公正証書の基本的な定義から確認しましょう。

公正証書とは、個人や会社などの依頼(嘱託)を受けて、公証人がその権限に基づき作成する公文書のことをいいます。公証人は法務大臣から任命される公務員で、公証役場に所属し、公証人法等に基づいて職務を行っています。

一般的な私文書(自分で作った契約書など)と比べると、公正証書には次のような特徴があります。

  • 公証人という公的立場の専門家が、本人確認・意思確認を行う
  • 内容が法律に反していないか等をチェックしたうえで文書化される
  • 正本・謄本とは別に、原本が公証役場で保管される

こうした仕組みにより、公正証書は「その文書が真正に成立したこと」について非常に強い証拠力を持つ公文書として扱われます。

また、公正証書の中には、一定の要件を満たすことで、裁判を経ずに強制執行が可能となるものもあります。

金銭の支払を目的とする契約で、「支払わないときは直ちに強制執行に服する」という趣旨の文言(強制執行認諾文言)を盛り込んだものが代表的です。このような公正証書は、「執行証書」と呼ばれます。


公正証書の主な種類

公正証書は一種類ではなく、目的に応じてさまざまな類型があります。法務省の公証制度の説明等を参考にすると、主に次のように分類できます。

契約に関する公正証書

民法上の契約に関する内容を、公正証書として作成するものです。代表的な例として、次のようなものが挙げられます。

  • 金銭消費貸借契約(お金の貸し借りに関する契約)
  • 売買契約(不動産・高額動産など)
  • 贈与契約(生前贈与など)
  • 賃貸借契約(建物・土地等)
  • 任意代理や委任契約 など

特に金銭消費貸借契約については、強制執行認諾文言を付けておくことで、債務者が支払わない場合に訴訟を経ずに強制執行手続に進むことができる公正証書(執行証書)とすることができます。

遺言に関する公正証書

いわゆる「公正証書遺言」は、公正証書の中でもよく利用されるタイプです。遺言者が公証人に対して遺言内容を口述し、公証人がこれを書面化していきます。その場には通常、証人2名も立ち会います。

公正証書遺言は、家庭裁判所による検認が不要であること、原本が公証役場に保管されるため偽造・紛失のリスクが小さいことなどから、相続実務において広く利用されています。

任意後見契約等に関する公正証書

本人の判断能力がしっかりしているうちに、将来判断能力が低下したときに備えて任意後見人を定める契約(任意後見契約)は、原則として公正証書で作成することが求められています。これにより、後見開始時に家庭裁判所から正式な後見監督人が選任されるなど、将来のサポート体制を整えることができます。

その他の公正証書

離婚に伴う養育費や財産分与の取り決め、企業間取引に関する重要な合意、事業承継に関する合意書など、当事者の合意内容を将来にわたって確実に残しておきたい場合に、公正証書が利用されることがあります。

実際にどのような内容が公正証書として作成できるかは、公証人の判断や具体的事情によって異なりますが、「将来紛争になったら困るもの」「長期間にわたる重要な約束」について、公正証書が選択されることが多いと言えます。


公正証書の法的な効力とメリット

公正証書には、一般的な私文書と比較して、次のような効力やメリットがあります。ここでは、主に事実として整理されているものを中心に説明します。

文書成立の真正が強く推定される

公証人が職務として作成した公正証書は公文書にあたり、その文書が適式に作成されたことについて、強い推定が働きます。裁判になった場合も、「その文書が存在していたか」「誰が署名したか」といった点について、非常に高い証拠力を持つとされています。

紛争予防の効果

当事者の意思が公正証書として明確に言語化されており、公証人が内容を確認していることから、後日「そんな約束はしていない」「意味を理解していなかった」といった争いになりにくいとされています。これは、相続や離婚、金銭貸借など、感情的なトラブルに発展しやすい分野で特に重要です。

強制執行力をもつ場合がある

お金の支払を目的とする契約について、公正証書に強制執行認諾文言を付けた場合、債務者が約束どおりに支払わないときには、裁判で勝訴判決を得なくても、原則として直ちに強制執行の手続に進むことが可能とされています。この点は、日本公証人連合会や法務省の説明でも明記されています。

もちろん、実際に強制執行を行うためには、執行文の付与や送達など、一定の手続を踏む必要がありますが、「裁判を起こして判決を待つ」という時間的・精神的な負担を軽減できる可能性がある点は、大きなメリットと言えます。

原本が公証役場に保管される

公正証書の原本は、公証役場で保管されます。当事者には正本・謄本が交付されますが、仮に当事者側で紛失してしまった場合でも、公証役場で謄本を再発行できます。そのため、偽造や隠匿といったリスクが低く、長期にわたって安心感を持って保管できる点も特徴です。


公正証書がよく利用される具体的な場面

公正証書の利用場面は多岐にわたりますが、ここでは日常的によく相談されるケースを中心に紹介します。なお、以下は一般的な事例であり、すべてのケースに必ず公正証書が必要という趣旨ではありません。

相続・遺言の分野

相続対策としてもっとも代表的なのが公正証書遺言です。自筆証書遺言と比べると、

  • 方式不備による無効のリスクが低い
  • 家庭裁判所での検認手続が不要
  • 原本が公証役場に保管される

といったメリットがあり、遺言を重視する専門家の多くが公正証書遺言を推奨しています。湘南さむかわ行政書士事務所でもこの方式を推奨しております。

金銭の貸し借り・事業資金の貸付など

親族間・知人同士・個人事業主や中小企業間の金銭貸借で、「口約束だと不安」「きちんと返済してもらえるようにしたい」といったニーズから、公正証書が検討されることがあります。特に高額の貸付や分割返済が長期に及ぶ場合には、公正証書+強制執行認諾文言の組み合わせが有効な選択肢となります。

離婚協議書(養育費・財産分与など)

離婚に際して取り決めた内容を「離婚協議書」として公正証書にしておくと、養育費の不払いがあった場合などに強制執行の根拠としやすくなります。もっとも、離婚そのものの成立や、親権・監護などについては家庭裁判所の関与が必要になるケースもあるため、個別事情に応じて専門家へ相談することが重要です。

任意後見契約・財産管理契約

将来の認知症や病気などに備えて、信頼できる人に財産管理や身上保護を任せる仕組みとして、任意後見契約や財産管理契約があります。これらは原則として公正証書で作成することとされており、本人の意思に基づいた柔軟なサポート体制を整えるための手段として利用されています。


公正証書作成の大まかな流れ

公正証書は、公証役場で公証人が作成しますが、当事者がどのような準備をし、どのように進んでいくのかについて、一般的な流れを整理しておきます。ここでは公正証書遺言や金銭契約に共通する大枠のみを説明します。

内容の検討・整理

まず、当事者自身で「どのような合意を文書にしたいのか」「誰と誰の間の契約なのか」「金額や条件はどうするのか」といった基本事項を整理します。遺言であれば、誰にどの財産をどの程度渡したいのか、といった点をまとめておきます。

公証役場(公証人)への相談・事前打合せ

次に、公証役場へ連絡し、公正証書作成の相談を行います。近年は、直接本人が公証人へ相談することも一般的であり、士業や金融機関を介さなければならないという決まりはありません。

事前の打合せでは、案として考えている内容を伝え、必要書類や作成の進め方について説明を受けます。遺言の場合であれば、戸籍関係書類や不動産の登記事項証明書、預貯金の情報などが必要になることが多いです。

必要書類の収集・案文の作成

公証人から案内された必要書類を収集し、場合によっては専門家のアドバイスも受けながら、文案のたたき台を用意します。そのうえで、公証人が正式な公正証書案を作成し、当事者に内容を確認してもらいます。

公証役場での作成当日

公正証書の内容が固まったら、公証役場での作成日を決めます。当日は、当事者(遺言の場合は遺言者)と、公証人、証人が公証役場に集まり、公証人が内容を読み聞かせたうえで署名・押印に進みます。

手続が完了すると、公証役場には原本が保管され、当事者に正本や謄本が交付されます。これで公正証書の作成は完了です。


自分で作る契約書・遺言書と公正証書の違い

公正証書でなくても、自分で契約書や遺言書を作成することは法律上認められています。では、どのような点が異なるのでしょうか。

形式・方式の違い

自筆の契約書や遺言書は、決められた方式さえ満たしていれば有効となり得ますが、その方式を満たしているかどうかの判断が難しい場合があります。特に遺言書では、方式の不備による無効が問題になることが少なくありません。

これに対して、公正証書は公証人が関与するため、方式面の不備が生じる可能性は相対的に小さくなります。

証拠力・説得力の違い

自筆の契約書でも証拠としての価値はありますが、その作成過程や署名・押印の真正性をめぐって争いになることがあります。公正証書は、公証人という第三者が本人確認・意思確認を行ったうえで作成するため、その成立の真正について非常に強い推定が働きます。

手間・費用の違い

公正証書の作成には、公証役場への手数料や、場合によっては専門家への報酬が必要になります。その一方で、自筆の契約書・遺言書には手数料はかかりません。

ただし、公正証書にしておくことで、後日の紛争予防や強制執行の容易さといったメリットが得られるため、「将来の安心」と「今の手間・コスト」をどうバランスさせるかが検討ポイントになります。


行政書士が公正証書に関して関われる範囲

まず大前提として、公正証書を作成する権限を持つのは公証人のみです。行政書士は、あくまでも依頼者の希望を整理し、必要書類があれば収集し、公証人に伝えるための準備やサポートを行う立場にとどまります。

文案の作成補助・内容の整理

行政書士は、依頼者から事情や希望を丁寧に聞き取り、

  • 遺言や契約内容の骨子の整理
  • 文案のたたき台の作成
  • 必要書類や事前に確認しておくべき事項のリストアップ

などを行うことができます。たとえば、遺言書の内容を検討する際に「誰に何をどのような割合で渡すのか」「特定の財産を指定したいか」「付言事項として何を残すか」といった点を一緒に整理していくイメージです。

必要書類の収集・公証役場との事前調整

戸籍や住民票、不動産の登記事項証明書など、公正証書作成に必要な書類の収集を代行します。また、公証役場との事前のやり取り(予約・必要書類の確認など)を、依頼者に代わって行うことができます。

このようなサポートにより、本人だけで手続を進めるよりも、準備漏れや手続上の負担を軽減できる可能性があります。

当日の立会い・手続全体のコーディネート

公正証書の作成当日に、行政書士が依頼者とともに公証役場へ同行し、手続の流れをサポートすることもあります。特に高齢の方や、手続に不慣れな方にとっては、顔なじみの専門家がそばにいることで心理的な安心感につながる場合があります。

たとえば、相続・遺言や契約書の作成支援を業務としている当所へ相談いただくことで、自筆証書と公正証書のどちらが適しているかを含め、全体像の整理から支援を受けることができます。

行政書士ができないこと・注意が必要なこと

一方で、行政書士には代理人としての交渉や、紛争性の高い案件で相手方と直接やり取りすることは認められていません。また、民事紛争について法的判断を行い、結論を示す行為は弁護士の業務領域とされています。

そのため、公正証書の内容をめぐってすでに激しい対立がある場合や、損害賠償請求・差止め請求などが現実的な選択肢となる場合には、弁護士への相談が必要です。行政書士への相談だけで解決しようとするのではなく、必要に応じて他士業と連携してもらうことが望ましいといえます。


公正証書の利用を検討した方がよい代表的なケース

最後に、公正証書の利用を検討してみてもよいと考えられる典型的なケースをいくつか挙げます。以下は一般論であり、必ず公正証書が必要という趣旨ではありませんが、参考としてご覧ください。

相続人同士の関係に不安がある場合の遺言

自筆証書遺言も法的には有効となり得ますが、方式の不備や保管方法の問題、相続人間の感情的対立などを考えると、トラブルのリスクをできるだけ減らしたい場合には、公正証書遺言を検討する価値があります。

高額の金銭貸借や長期の分割返済が予定されている場合

貸付金額が大きい場合や、分割返済が長期間にわたる場合には、万が一の不払いリスクを念頭に置いて、公正証書+強制執行認諾文言の組み合わせを検討することがあります。これは、将来の強制執行を確実にするというよりも、「きちんと返済する」という心理的な拘束力を高める効果も期待されていると考えられます。

養育費の支払を確実にしておきたい離婚協議

子どもの養育費が絡む離婚では、将来の未払いを防ぐために離婚協議書を公正証書として作成することがよくあります。これにより、もし養育費の支払いが滞った場合には、一定の手続を前提としつつも、強制執行を視野に入れた対応が可能となります。

将来の判断能力低下に備えたい場合

認知症などに備えて任意後見契約を検討する場合、原則として公正証書で契約書を作成する必要があります。併せて財産管理契約や見守り契約を検討するケースもあり、複数の公正証書を組み合わせて長期的なサポート体制を整えることもあります。


まとめ

公正証書は、法律上特別な位置づけが与えられた公文書であり、証拠力の高さや紛争予防の効果、場合によっては強制執行力まで備えうる、非常に強力なツールです。その一方で、手数料や専門家報酬、必要書類の準備といった負担も生じます。

大切なのは、「自分や家族にとって、どの程度の安心を確保したいのか」「将来どのような事態を避けたいのか」という観点から、公正証書の必要性を検討することです。そのうえで、遺言・契約・任意後見などの制度と組み合わせながら、自分に合った形で活用していくことが望ましいといえます。

公正証書を作成すべきか、自筆の文書で足りるか、あるいはそもそもどのような方法が適切か分からない場合には、早い段階で法律の専門家に相談し、選択肢を整理してもらうことをおすすめいたします。