「親が高齢になってきた」「自分の老後が少し不安」「もし認知症になったら、預金の管理や施設の手続はどうなるのだろう」
こうした悩みは、ある日突然、現実味を帯びてきます。
任意後見契約は、将来、判断能力が低下したときに備え、あらかじめ信頼できる人に「代わりにしてもらうこと(代理権)」を決めておく制度です。ポイントは、元気なうちに自分で相手と内容を決められることにあります。
ただし、任意後見契約は「作っただけ」では始まりません。契約があっても、家庭裁判所で「任意後見監督人」が選任されて、はじめて効力が生じます。ここを誤解していると、いざという時に「思っていたのと違う」となりかねません。
任意後見契約でできること・できないこと
できること(契約で定めた代理権の範囲)
任意後見契約で「できること」は、基本的に契約で定めた特定の法律行為を本人の代理として行うことです。たとえば、次のような項目が検討対象になります。
- 預貯金の管理、支払い
→ 家賃・施設費・公共料金など - 年金・各種給付の受領に関する手続
- 不動産の賃貸借に関する手続
→ 更新・解約等 - 介護サービス契約・施設入所契約などの契約手続
- 役所での届出・申請の補助
→ 代理が認められる範囲にて
ここで大切なのは、「財産管理一式」など曖昧に設定せず、「何を任せたいか」を具体的に決めて書いておくことです。
できないこと(制度の限界)
任意後見は便利な一方で、何でも万能に解決できる制度ではありません。たとえば、家族関係の紛争(争い)が生じた場合に、任意後見だけで解決するのは難しいことがあります。
また、任意後見は「将来の代理」を想定した制度なので、契約直後からフルに動けるわけではない点も重要です。実務上は、必要に応じて財産管理等委任契約などの契約と組み合わせることを検討することがありますが、これは事情により向き不向きが分かれます。
「契約」から「発効」までの流れ
任意後見契約は、ざっくり言うと次の二段階です。
- 任意後見契約を公正証書で作成
→ 将来の代理権を決めておく - 家庭裁判所で任意後見監督人が選任
→ ここで発効
発効(任意後見監督人の選任)とは
認知症や精神障害など、本人に精神上の障害によって「ひとりで決めることに不安がある」状態になったとき、家庭裁判所が任意後見監督人を選任できます。監督人が選任されると、契約で定めた任意後見人が監督の下で代理権を行使できるようになります。
申立てができる人は、本人・配偶者・四親等内の親族・任意後見受任者などに限られます。さらに、本人以外が申立てをする場合は、原則として本人の同意が必要です(意思表示できない場合などの例外あり)。
申立て先や必要書類
申立て先は、本人の住所地の家庭裁判所です。
戸籍謄本、任意後見契約公正証書の写し、登記事項証明書(成年後見等に関する登記事項証明)、診断書(裁判所所定様式)、財産資料(不動産・預貯金等)などの書類を揃えて提出し、申立手数料や登記手数料などを納めます。
任意後見契約で決める「中身」について
代理権の範囲は「やることベース」で具体化
任意後見契約で最も重要なのは、代理権の範囲(何を任せるか)です。「代理権目録」という形で、任せる事項を整理します。
ここの内容が薄いと、いざ発効した後に「この手続をして良いのか」が曖昧になり、金融機関や施設で手続が止まる原因にもなり得ます。
財産管理だけでなく、生活面(身上監護)の項目も検討
任意後見は、預金や不動産だけでなく、生活・療養・介護に関する契約や手続も射程に入ります。
たとえば、介護サービス契約、施設との契約や支払い、住居の契約関係など、暮らしに直結する部分を整理しておくと、本人・家族双方の安心につながります。
任意後見人を誰にするか
任意後見人には、誠実さだけでなく、書類管理やお金の管理を丁寧にできる資質も重要です。また、本人の価値観に沿って対応・判断できる関係性かどうかも考慮したいところです。
もし家族内で意見が割れやすい場合は、あらかじめ「どこまで任せるか」を明確にし、感情的な衝突が起きにくい設計にしておきます。
公正証書で作る理由と、作成時の注意点
任意後見契約は、法律上公証人が作成する公正証書によって結ぶものとされています。つまり、任意後見は「私文書でそれっぽく作る」では成立しません。
公証役場での打合せと当日の流れ
公証役場では、契約の趣旨や代理権の範囲、当事者の意思確認などが行われます。
公証人は形式だけでなく、内容の適法性や明確性にも配慮します。結果として、後日のトラブル予防につながる点が、公正証書の強みです。
出張対応
身体状況などにより公証役場へ行くのが難しい場合、公証人が出張して作成する制度があります。利用する場合は手数料の加算(加算率の取り扱い)があります。
解除はいつでもできる?
任意後見契約は「将来のための契約」なので、状況が変われば不要になることもあります。ここは誤解が多いポイントです。
監督人が選任される前(まだ発効していない段階)
発効前であれば、当事者の合意または一方からも解除ができます。とはいえ、口約束やメモで済む話ではなく、公証人の認証を受けた書面によることが要件となります。
監督人が選任された後(発効後)
発効後は、任意後見監督人が置かれ、制度として動き出していることから、解除をするには家庭裁判所の許可が必要です。
行政書士が支援できる範囲
任意後見契約は、制度の説明を読むだけでは、実際に「自分の場合はどう書くべきか」まで落とし込むのが難しい分野です。行政書士は、次のような支援が可能です。
- 事情整理
→ 誰を任意後見人にするか、何を任せるかの棚卸し - 代理権目録の作成支援
→ 具体的な手続・支払い・契約を想定して文案化 - 必要書類の収集支援
→ 戸籍等の取得手配、資料の整理 - 公証役場との事前調整支援
→ 日程、持参物、文案のすり合わせ - 相続・遺言とのセット整理
→ 任意後見と遺言の整合を取る
湘南さむかわ行政書士事務所では任意後見契約単体としてではなく、遺言・相続、財産の整理、将来の生活設計まで含めて、書類と手続を「つながる形」で整える支援を重視しています。
制度の説明を読んでも自分のケースに当てはめづらいと感じたら、湘南さむかわ行政書士事務所へのお問い合わせも選択肢としてご検討ください。
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