取引や日常生活の場面で、「とりあえず覚書(おぼえがき)を作っておきましょう」と言われたことはありませんか?
覚書は、名前の印象から「メモ」「参考資料」のように感じられがちですが、当事者間の合意を示す重要な書面になります。本記事では、覚書の基本・契約書との違い・法的効力・よく使われる場面・作成時の注意点を整理します。
なお、湘南さむかわ行政書士事務所では、覚書・合意書などの書面作成支援や、事情に応じた内容証明郵便の活用なども含め、状況整理からお手伝いしておりますので、気軽にお問い合わせください。
覚書とは何か
覚書は、当事者同士で取り決めた内容を書面として残すための文書です。実務上は、次のような目的で使われることが多いです。
- 基本合意に近い使い方
→ 契約締結前に、まず大枠の合意事項を確認する - 変更覚書・追加覚書
→ すでにある契約書に、追加・変更・補足の合意をする - 「口約束」の内容整理
→ 後になって発生しかねない認識違いを防ぐ
「覚書」という表題だから法的に軽いわけではありません。法的に評価されるのは表題ではなく、そこに何が書かれているか(実質)です。
契約書・合意書・念書との違い
契約書との違い
契約書は、権利義務関係を中心に、取引条件を体系的にまとめた書面として用いられるのが一般的です。
一方、覚書は、契約書に比べて限定的なテーマ(追加合意・変更点・補足事項など)をまとめる場面で使われやすい、という商慣習上の違いがあります。
合意書との違い
合意書も「当事者双方の合意を文書化する」という点では覚書と共通します。
実務では、独立した合意をまとめるときに「合意書」、既存の契約や取り決めの補足・変更をまとめるときに「覚書」と呼ぶことがあります。 ただし、呼び方は絶対ではなく、やはり内容(実質)がどうであるかが大切です。
念書との違い
念書は、当事者の一方が相手方に対して約束する内容を記し、差し入れる形で用いられることが多い文書です。
覚書は、双方の合意を前提として双方が署名押印するのが一般的であるのに対し、念書は作成者(差し入れる側)だけが署名押印する形が多い、という整理がよくなされます。
覚書に法的効力はある?
結論として、覚書は内容次第で当事者を拘束する合意書面になり得ます。
契約は、原則として「申込み」と「承諾」が合致すれば成立し、書面が必須ではないとされます(諾成契約)。つまり、口約束でも契約が成立する余地がある一方、後から争いになったときに何を合意したかの証明が難しくなります。
そこで、覚書として合意内容を整理し、署名押印をしておくことで、少なくとも当事者間で何を合意したのかを示す資料になり、紛争予防の効果が期待できます。
ただし、ここは誤解しやすいポイントです。覚書を書いたからといって、あらゆる状況で必ず望む結果が得られるわけではありません。 実際の強制力は、内容の具体性、合意の成立過程、関連法令、証拠の揃い方などによって左右されます。
覚書がよく使われる場面
覚書は「契約のすべて」を作るよりも、特定テーマを早く固めたいときに便利です。たとえば次のような場面で使われます。
- 契約条件の一部変更
→ 金額、納期、支払方法、仕様変更など - 追加合意
→ 追加業務の範囲、追加費用、役割分担など - 清算・精算
→ 解約時の精算方法、違約金の扱い、返還物など - 秘密保持・個人情報
→ 簡易なNDA(秘密保持契約)として合意事項を補う - トラブル予防
→ 口頭合意を整理し、双方の認識を一致させる
※後述しますが、既存契約を変更する文書(いわゆる変更契約書)については、税務上、印紙税の論点が出ることがあります。
覚書に必ず入れたい基本項目
覚書は短く作れる反面、抜けがあると後で効かない、または揉める原因になります。
最低限、次の項目は入れましょう。
当事者の特定
会社なら商号・所在地・代表者名、個人なら住所・氏名を記載します。
契約書と同様に、誰と誰の合意かを明確にします。
目的(何のための覚書か)
「どの契約・どの取引に関するものか」「何を変更・追加するのか」を1〜2行で明確にします。
ここが曖昧だと、後で「その話の覚書ではない」という争点になり得ます。
合意内容(条項)
結論(何をどうするか)を、できるだけ具体的に書きます。
金額・期限・対象範囲・方法・例外を、数字や日付で落とし込むのが基本です。
優先関係(原契約との関係)
原契約がある場合は、「本覚書は原契約の一部を変更する」「本覚書と原契約が矛盾する場合は本覚書を優先する」など、優先関係を明記すると整理がしやすくなります。
有効期間・適用範囲
いつからいつまで有効か、どの範囲に適用するかを定めます。
作成通数・保管
「本書2通を作成し、当事者各1通を保有する」など、通数と保管を明記します。
日付・署名押印
合意日、作成日を入れ、双方が署名(記名)押印します。電子契約の場合は電子署名等の方式を採ります。
覚書で一番大切なのは「争点になりそうな部分を、先回りして言語化すること」です。短い書面ほど、この工夫が効きます。
収入印紙は必要?
覚書を作るときに見落とされやすいのが印紙税です。税務上は、文書の名称(覚書・合意書・契約書など)ではなく、その文書が何を証明するものか(実質)により、課税文書に当たるかどうかが判断されます。
たとえば、原契約の内容を変更する文書(変更契約書)については、国税庁が「重要な事項」を変更する内容が含まれるかどうかで課税文書該当性を判断する旨を示しています。 また、電子契約(電磁的記録)で作成する場合は、一般に紙の文書のように収入印紙を貼付する対象にはなりません。
印紙税は、貼り忘れが後から問題になることがあります。覚書を作る際は、課税文書に該当するかを一度チェックする癖をつけるのが安心です。
「自分で作成」 or 「専門家に相談」の目安
自分で作成しやすいケース
- 争点が少ない
→ 当事者・目的・金額・期限が明確 - 作成が容易
→ ひな形を使っても、内容を自分の言葉で具体化できる - 相手との関係が良好
→ 相手方も条項を丁寧に確認してくれる関係
相談した方がよいケース
- 争点が多い
→ 金銭・納期・責任分担など、後で揉めやすい要素がある - 原契約が複雑
→ どこをどう変えるべきか整理が難しい - 様々な法令が絡む
→ 印紙税のほか、許認可・個人情報・労務等など - 相手との関係性が微妙
→ 相手方から提示された文案が妥当か判断しにくい、指摘しづらい
覚書は短い分、「言葉の選び方」で結論が変わることがあります。 たとえば、同じ「変更」でも、どの条項を置き換えるのか、例外をどう書くのかで、後日の解釈が大きく変わります。
書面の作成や整理が難しいと感じたら、気軽に湘南さむかわ行政書士事務所へご相談ください。状況を伺いながら、合意内容が適切に伝わる形への落とし込みをお手伝いします。